Tuesday, July 13, 1999

【 '99-03 】 野営場の猫

キャンプを始めてから、もうかれこれ4年になる。寝心地の良い芝生、雨天のテント設営、突然現れた野生馬・・・等など、野営場でのエピソードを数えたらキリが無い。

今回の北海道ツーリングでも、8泊中の7泊を空の下で眠った。最初の日は上士幌(かみしほろ)という町を選んだ。聞いた話では、北海道には気球を飛ばす所が幾つかあるが、この町もその一つだそうだ。

翌朝、この野営場に一匹の可愛い容姿をしたノラ猫が現れた。時間帯は朝の食事時。あちこちのテントの様子を伺っているようだった。その猫は濃いグレーの縞模様をまとっている。歩く姿は野性的(そりゃそうか)。そこで私は勝手に名前を付けさせてもらった。《クロシマ・トラ》さん。

コーヒーを飲みながら、しばらくトラさんを眺めていた。彼女(もしかして彼かもしれないが)は、野営場の中心にある調理場に向かった。そこには人間の腰の高さほどの木製台があって、その下にチョコンと座っている。傍の流し台では、一人の男性が洗い物をしている。何かおこぼれがないか気にしているように見える。男性のほうも、トラさんの存在には気づいていて、作業が終わるとトラさんを撫で撫でしてあげていた。

おこぼれが貰えなかったトラさんは、今度は私たちのほうに向かって歩いてくる。「ごめんね~、何も無いのよ。」 その言葉を理解したかのように、彼女は少し離れた場所に行きチョコンと座った。なんだか奥ゆかしい猫だ。

朝の空に青色の気球が上がった。それに見とれている私の横で、クロシマトラさんもジッと青色の物体を見上げている。「今までに何度も見てきたわ。それにしても、どうしてあんな物が空に浮かぶのかしらねぇ。」 そんな事を考えているかのような顔つきだ。

野営場に居る猫たちは皆、人間とは付かず離れずという距離を保っているように思う。近寄り過ぎると追い払われるし、遠巻きに見ているだけでは獲物にありつけない。「なんだ、猫か。」と言って、ぽーんと餌を投げてもらえる距離、そんな位置に彼女たちは居る。上士幌のクロシマトラさんは決して媚びなかった。それが気になる存在にさせるのか。

それにしても、彼女、冬はどうしているんだろう? 町まで歩いて行って、どこかの軒下にでも暮らしているのだろうか。旅を終えた今でも気になるのだった。

0 Comments:

Post a Comment

<< Home